「サービスの本質」とは何か


中小企業診断士の石村飛鷹です。

 

以下2つの広告を見比べてみてください。

両方とも「新たな鉄道が開通する」という内容の広告です。

 

一方は、2015年の北陸新幹線の東京~金沢間開通時のもの。

もう一方は1910年のイギリス国鉄・グレートウェスタン鉄道社の

ロンドン~バーミンガム間開通時のものです。

 

1910年といえば日本はまだ明治時代。

今から112年も昔のことです。

 

2つの広告を見比べてみて皆さんは何を感じますか?

私が感じたのはチラシの持つ提案力の違いです。

 

112年前に考えられた右側の広告は「スペック」だけでなく、

「ベネフィット」まで言及出来ているのに対して、

2015年に考えられた左側の広告は残念ながら「スペック」の情報しかなく、

肝心の「ベネフィット」まで言及されていません。

 

どういうことか。

商品の「スペック」とは、機能や性能です。

つまり鉄道での「所要時間〇〇時間」にあたります。

 

・イギリス:ロンドン~バーミンガム間:2時間の最短ルート "2 Hours Shortest Route"
・日本  :東京~金沢間      :2時間28分

という情報が「スペック」に該当します。

 

一方、商品による「ベネフィット」とはその商品を買った結果、

"どんな良いことが起こるか"です。

 

イギリスの広告では、いかにも成功した紳士が

車掌とガッツリと笑顔で握手を交わしています。

 

さらにその右下にある紳士のセリフにご注目。

"Splendid win ! Thank you !"

日本語にすると「見事な勝利だ!ありがとう!」

とあります。

 

そうです。

乗客が本当に欲しいのは、「商談の成功」や「ビジネスでの勝利」であって、

ロンドン~バーミンガム間を2時間の最短ルートで移動することは

手段に過ぎません。

 

おそらくですが、

新設鉄道の運賃は既存ルートより割高のはずです。

鉄道会社は設備投資した金額を乗客からの収益で回収しないといけません。

 

「高くても良いからそのサービスが欲しい!」という

消費者心理をくすぐれるかどうか、

お客様が得ることができる「ベネフィット」を

言語化・ビジュアル化できるかどうかというのは、

これからのビジネスにおいてとても重要なことです。

 

また、業に携わるスタッフ全員が提供しているベネフィットを理解し、

その意識を持ってサービス提供できることが重要です。

「サービスの本質」とはそういうことではないでしょうか。

 

グレートウェスタン鉄道は新路線を開通させた企画担当者だけでなく、

現場の車掌にも顧客に提供する「ベネフィット」の理解が

浸透していたのだろうと推察します。

 

残念ながら日本の技術者や製造業は、

このポスターが象徴するように「スペック」の情報に徹する傾向にあります。

ややもすると「モノ売り」の一方的な情報発信になりがちで、

「コト売り:お客様が望んでいることの解決提案」まで出来ていないと感じます。

 

皆さんの会社のパンフレット・チラシ・ホームページはどうですか?

 

今から112年前の明治時代に既に欧米では「コト売り」「ベネフィット」の

概念が浸透していたことに学ぶべきではないでしょうか。

 

それもイギリス国鉄というあまり"商売っ気"がなさそうな

事業者ですらこれだけの提案力を誇っていた訳です。

 

本記事を読んでドキっとした方、安心してください。

良い切り口があります。改めて自社の商品・サービスに関して以下の切り口で分析してみてください。

 


  • 誰の
  • どんなお困りごと
  • 利用シーン
  • ニーズに対して
  • 何を
  • どうやって
  • いくらで提供するのか


 

イギリス国鉄の例で言うと「ロンドン在住のビジネスマンの、バーミンガムの顧客訪問が翌日以降になるために発生していた失注に対して、これまでも2時間短縮した移動手段を、既存ルートよりも〇%高い値段で、事前予約不要かつビジネスアワーの間に到着するサービス」などといった具合です。

 

本記事の筆者

石村 飛鷹(ひよう)

 

中小企業診断士、MBA(経営学修士)

いしむら経営コンサルタント株式会社 代表取締役

 

社長の右腕となり、"社内の旗振り役"となることで現場を巻き込み、

"今ある設備や社員だけで"生産性を向上させることを得意とする。

新たな投資や採用をしなくても”儲かる仕組み”を導入する支援を行っている。

 

日本ヒューレット・パッカードにてIT統合コンサルティング、

東京商工会議所で経営指導員として数多くの中小企業向け

コンサルティングに従事したのち独立。